欧州のエネルギー供給の将来は北海に
1月5日、ドイツの連邦経済技術省が、「北海沿岸諸国オフショア・グリッド・イニシアティブ(“North Seas Countries’ Offshore Grid Initiative“)」結成を発表した。イニシアティブ参加国は、ドイツ、イギリス、フランス、ベルギー、デンマーク、オランダ、アイルランド、ルクセンブルク、ノルウェーの9カ国。イニシアティブが目指すのは、欧州レベルでのオフショア風力発電施設の系統への連系と統合だ。「我々の課題は、送電系統、いやエネルギーシステム全体の抜本的再編と改善にある。再生可能エネルギー発電の推進を迅速化し、系統への効率的な統合を目指す。我々は、可能な限り速やかに再生可能エネルギー時代への飛躍を遂げるよう努力する」と、ブリューデルレ連邦経済相。
参加諸国は昨年12月7日にアイルランドで準備会合を持った。来月9日には各国コーディネーターレベルの第一回会合を予定。今後のイニシアティブの会合では、参加各国のオフショア発電達成目標やオフショア発電政策についての情報交換、電力インフラ改善における協力、及び北海における国際オフショア発電推進計画策定がテーマとなる。今秋までには事業実現に向けたタイムテーブルを作成し、年内に関係国担当相による覚書への調印を目指す。
1月5日付けの南ドイツ新聞によれば、数千km長のハイテク高圧送電ケーブルが北海海底に敷設され、ドイツの洋上風力発電や英国沿岸の風力発電が、ノルウェーの水力発電、ベルギーやデンマーク沿岸の潮力発電、さらに欧州の陸上風力発電や太陽光発電と結ばれることになる。総工費は300億ユーロ。交渉には、欧州の大手エネルギー供給者や系統運用事業者の参加も見込まれており、工費の大半は経済界が担うことになる模様。海底送電ケーブル完成は政府関係者によれば10年後の見通しだと、南ドイツ新聞は伝えている。
欧州連合(EU)は、2020年までに電源の20%を再生可能エネルギーで賄うとの数値目標を設定しており、その実現に向けて再生可能エネルギー部門の拡充を強力に進める必要がある。現在、欧州の電力大手は海上風力発電施設の建設に注力しており、事業完成の暁にはその総発電容量は100GW(大型石炭発電所100個相当で欧州の電力数総需要10%)に上るとみられている。だが、これらの大規模風力発電施設からの電力を受け入れるには、欧州の既存送電インフラの容量は十分ではなく、送電インフラの拡充が必要不可欠だと、専門家からは指摘されている。
欧州規模で各種の再生可能エネルギー電源を統合するこの北海海底送電ケーブルには、再生可能エネルギー発電の欠点 − 天候に依存する不安定供給 − の解消も期待されている。とりわけノルウェーの水力発電施設が、蓄電施設として英国の沿岸風力発電とドイツの洋上風力発電による余剰電力の受け皿とされる見込みだ。
各種の再生可能エネルギーを系統を通して効率的に統合利用するヴァーチャル発電所の試みは、例えばすでにドイツの各地で進められているが、これらはあくまでも小域に限定された事業だ。また欧州ではすでに昨年、サハラ砂漠の太陽エネルギーを欧州地域の電力供給に利用しようという巨大将来事業のデザーテック計画がスタートした。今回の北海海底送電ケーブル計画も同様に欧州広域を視野に入れた巨大プロジェクトではあるが、利用される発電施設や具体的な建設計画がすでに存在するという点で、デザーテック計画よりはるかに現実味があり、新年の初夢では毛頭ない。本計画は、今後世界各地からもおおいに注目されることになるだろう。
情報出所: